西日本ロードクラシック広島大会Day2
12.3km×10周=123km

リザルト

4位 柴田雅之
14位 谷順成
26位 西尾憲人
31位 渡邊翔太朗
DNF 竹村拓
DNF 下島将輝
DNF 佐藤大志
DNF 佐藤宇志

詳細リザルトはこちら:https://jbcfroad.jp/result/100/

ランキング

■個人
21位 谷順成
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■チーム総合
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レポート

予想に反して1周目に形成された5名の“勝ち逃げ”が逃げ切り、3名に絞られたスプリントを阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)が熟練のスプリントで制し、自身にとっては嬉しい久しぶりの勝利を挙げた。那須ブラーゼンは1周目に形成された逃げに自らの単独ブリッジによって加わった柴田雅之が4位でフィニッシュ。

すべての力を尽くし悔しさを滲ませる柴田がフィニッシュラインを越えた瞬間

チームオーダー

1.谷
2.柴田
3.宇志
4.大志
5.ケイト
6.下島
7.竹村
0.渡邊

ブラーゼンは全レースで優先度をこのような順列を設定することでレース状況に合わせた判断の基準にしている。
前日に好調な様子をみせていた谷、柴田をエースに据えて終盤に二人を中心に勝負、たかし・ひろしの佐藤ツインズが最終のアシストを担う。ケイトは序盤から徹底的に優先度の高い選手達から順にアシストしていき、下島、竹村はポジショニングを担当。渡邊は最も持ち味を生かせるフリー。

前日のDay1ではパラパラと先行した選手達に勝ち逃げを形成されてしまいレースを良い形で終えることができなかったため、“逃げ損”がないと言われている広島中央森林公園のコース特性にも合わせて、前方への意識はやや引き上げることに。しかし、前日同様、相当な猛暑下のレースとなるため、アタックらしいアタックはオーバーヒートによって後退すると予想し、登り区間で強豪勢がじわじわとペースアップする類の抜け出しのみ谷・柴田のエースコンビとツインズ中心に勝負できる体制でチェックを入れ、やがて精鋭集団が形成されるところになるべく多くの人数を送り込むというのが大まかな方向性となる。

ブラーゼンが勝利をあげるには、序盤はダメージを避けて潜伏し、ブリッツェン、キナン、マトリックス、愛三やUKYO勢などの組織的にレースをする競合勢の消耗をみてから数的な有利に持ち込むことが求められる。そのためには特に立ち上がりには積極的に逃げを打つ姿勢ではないため、先行の選定作業と有力チームが抜け出してしまった時の判断までが集中力を問われる部分となる。

タフなレースでもムラなく対応する谷を今回もエースの一角に

自らの好調を悟り、静かに集中力を高める柴田雅之

序盤の攻防

予想通り体感温度も相当高く、熱による消耗でレースが別物と化す様な状況。1周目プロトン全体がどのように動くかで作戦の方向性を確定する要素になるためスタッフ陣もアナウンスとライヴ配信、無線からの情報に最新の注意を払っている。数分もしないうちに「ひろし落車!」の声が無線から聞こえてくる。1周目にして重要な1枚を失ってしまったことを悟る。また、ここには渡邊も絡んでしまった様だ。

コース中盤からの登り区間に入り、各チームが消耗を避けての消極策で来るであろうとの読みは一周目から崩れ去った。広島中央森林公園サーキットコースの勝負どころは三段坂と呼ばれる登り区間であり、この登り区間で毎周ペースを維持し続けられた選手が最終の勝負の切符を手にするサバイバルな展開が多いのが特徴。今回は1周目からペースが上がり、勢いよくアタックが出て行った。6名が飛び出しているという情報がアナウンスされ、状況の整理を急ぐ。マトリックスの吉田とホセ・ビセンテ、キナンのトマ・ルバ、ブリッツェンからは阿部、ブリヂストンは孫崎が入っている。かなり強力なメンバーだ。

すぐにケイトから無線でメンバーの確認が来る。同時に「牽くか牽かないか」の判断を迫られた。ミーティングの通りに読んでレースを進めるとすれば「牽かずに他のチームが動くまで待機」だが、メンバーが強力なだけに正攻法にいけばブリッジか牽引を選択しなければならない。しかし、1周目から作戦全体の変更を決断できず、またブリッジをかけるようなアタックは一枚を切って捨てるだけになる可能性があると踏んだため結果的にどっちつかずの指示となってしまった。

しかし、無線の先では柴田が各選手とコミュニケーションをとってケイトらがタイム差をコントロールしした後、柴田自らブリッジ狙いを決断。ケイト、下島の捨て身の牽きを発射台にして柴田が射出。他のライバルチームの追随も許さず単独ブリッジを成功させた。レース後に確認したパワーデータでは30秒ほどの数値が驚くほどの高出力だった。これだけの出力では他の選手がついてきていたとしても振い落せていたであろう素晴らしいパフォーマンスだった。結果的にこのブリッジの成功が今日のブラーゼンの走りの中でベストプレーとなった。勇気をもって決断した柴田自身とチームの働きは素晴らしかった。

柴田がブリッジを成功させた頃、先行集団からは吉田が耐えきれず後退し、計5名の先行集団に柴田という構図に。

柴田を先行させて谷、たかしでの勝負を出来る状況にある。先行とメイン集団のタイム差は2周目から一気に拡大し、レースは一旦の落ち着きをみせる。

頭の中には「まだまだパラパラと追走を狙う動きが出て行って人数を減らしながらも先行集団を捉えに行くだろう」というもので、「他のメンバーはパラパラと上がっていく選手にはしっかりとチェックを入れて自らも追走に入っていって」と注意喚起する。

2周目の終わりで、たかしから「調子が悪いです」との無線連絡。酷暑下では自分達も想定外のダメージを負う可能性はあるわけで、これはまさに“それ”だった。

できる限りの仕事をまっとうした下島将輝

柴田が強力なアタックで単独ブリッジに成功

集団に“蓋”をするキナンサイクリングチーム勢

中盤戦

3周目以降からはヒンカピーリオマベルマーレやレバンテフジなどが組織的な牽引を開始し、タイム差は3分30秒前後での推移となった。まだまだメイン集団にも有力勢は多く残っているので、脚を温存しながら追撃をかけてくる予測は変えない。

快調なペースで逃げ続ける5名はスムーズにローテーションを回し続けている。こちらの目からはブリッツェンの阿部、ブリヂストンの孫崎は余裕が無いように見えていた。「柴田、アベタカさん、孫崎はきついよ。今日の柴田の脚はこの5人の中でも勝てる脚。クレバーに走って勝とう。」と何度もやり取りをする。

一方メイン集団は終盤に差し掛かってもペースが上がっていかない。暑さによる消耗や、途中で下り区間で雨が降り落車が散発したことも有力勢の脚を削いだ。

柴田は余裕を持ってローテーションに加わっている

この日もすべての力をチームメイトのサポートの為に割くケイトの姿

先行集団を吸収したとしてもブラーゼンには勝負の手札が残っている

広島2連戦は不運の連続だった渡邊も加われば更に強力な布陣になる

終盤戦

残り4周の登り区間でトマ・ルバを送り込んでいるキナンがメイン集団前方で動いてきた。おそらく山本兄弟のブリッジなどを狙っているはず。「全員のポジションを上げて追走を逃さないで!」と指示を送る。メイン集団内ではケイトが谷をサポートし、渡邊や竹村も組織的なポジショニングを出来ている。

最終にかけて動いてきたキナンサイクリングチーム

最終盤からフィニッシュへ

キナンの攻撃によってタイム差は2分20秒まで縮まったが、再びタイム差の縮小が止まって拡大方向に。「今日はもう柴田の日だ。柴田で勝負がかかるよ。クレバーに。落ち着いていこう。」と無線連絡。柴田からは常に補給のドリンクを指定する連絡も入っていて、冷静に走れている様子。脚色も悪くない。「トマ・ルバが必ず動く。合わせれば柴田勝てる。」と何度も無線に呼びかける。柴田なら登りで孫崎と阿部を置いていけるはずと踏んでいたため、勝利の可能性も低くないと考えていた。

最終周に入り、タイムは4分を越えている。「柴田、登りでトマ・ルバがいかなかったら自分でかけよう。登りの終盤から下りにかけて踏み切って揺さぶりアタック。」の指示。スプリントに持ち込まず勝負すれば柴田に勝機があると判断。
ほどなくして先行集団では牽制とアタックの打ち合いが始まる。柴田が冷静に対応している。登り区間が迫ってくる。

メイン集団の谷には「もう先頭には追い付かないので、6位を取りに谷自ら動こう。登りで行くのでケイトがポジションをあげて」の指示。間髪入れず「打ち合いに対応中!」の返事が返ってきて6位争いが激化したことがわかった。

先頭のライブ映像がきた。柴田の加わる5名先行手段が遂に最後の登り区間に突入。やはりトマ・ルバが動いてきた。間髪を入れずホセ・ビセンテが対応している。孫崎が遅れた。「孫崎が遅れた!チャンスだ!柴田耐えろ!!」

登りでは厳しいと読んでいた阿部がしっかりと対応している姿が気がかりだったが、「柴田は大丈夫!」と信じる。トマ・ルバがペースアップを続けている。三段坂の二段目。柴田の視線が下がった。柴田が厳しいか。じわじわと車間が開いている。「柴田頑張れ!!たえろ!!がんばれ!!」先にリタイヤした選手達も全員無線に向かって叫んでいる。

 

頂上付近から下りへ。先頭は3名に。明らかに牽制している。
「柴田!前は牽制してる!!追いつける!追いつけるぞ!」無線が鳴り続ける。

画面は先頭の3名を映していて柴田の様子とタイムギャップはわからない。無線に叫び続けながら固唾をのんでホームストレートに入ってくるのを待つ。

3名が互いに牽制し蛇行しながらホームに現れた。柴田が見えない。5秒ほどして柴田の姿が後方に見えた。先頭の3名の勝負に加わるのは厳しい距離。一心にペダルに力を籠めようとしているが既に限界を超えている。
ブラーゼンの全選手スタッフから「柴田頑張れ!!がんばれ!!」の声

3名は牽制したままスプリント体制に。
阿部が車間を切って一気に左側から加速。ホセ・ビセンテが着こうとするが届かない。トマ・ルバは掛かりが鈍い。阿部が伸びて技ありの先着。

柴田はすべてを出し尽くして4位でフィニッシュにたどり着いた。

「すみません。勝てませんでした。」と悔しさを噛みしめながら無線に柴田の声が入ってきた。「よく頑張った」と全員の無線が声をかけている。

後方集団では登り区間での打ち合いから数名が抜け出していた。谷の姿が中規模の集団の中に。全員から「谷、いけ!!」の声。14位でのフィニッシュだった。

少し遅れてこの日もアシストに力を尽くしたケイトが26位でフィニッシュ。

渡邊も更に遅れたがフィニッシュまでたどり着いた。

14位フィニッシュを迎える谷順成

終盤は登りの度に遅れそうになりながらも下り区間で集団に戻って谷の為にすべての力を尽くしたケイト

総括

今回のレースはとにかく柴田の走りは目を見張るものがあり素晴らしかった。ブリッジという大胆な決断を自ら敢行しチームを救い、最後まで優勝争いを繰り広げてくれた。4位も今シーズンのチームで収めたリザルトの中で最上位であり、遂に表彰台と優勝まであと一歩まで迫ってきた。柴田は昨年は手術からの復帰で半シーズンを療養にあてた為、ツール・ド・おきなわの他は大きな成果を上げることが出来ていなかったが、今回のレースで遂に開花の一片ををみせた。

個人的な感想になってしまうが、今回の柴田の走りには本当に心が震えた。これまでにしてきた努力が実を結ぼうとしている瞬間でもあり、また、ここまでの8戦では精神的にも大きな成長を遂げていた。その成果を最もハードなレースにぶつけている姿は美しかった。

メイン集団に残った選手達もしっかりとそれぞれの仕事を全うしていた。たかしの不調、渡邊、ひろしの落車は非常に残念だったが、それだけの主力を欠いたとしてもしっかりと戦えるチームの姿は頼もしさすら感じた。

酷暑に見舞われ、不確定要素が多く、判断の難しい状況で、自分自身の指示内容には課題を残してしまったが、コース上で対応する選手達の力や判断力が明らかに上がってきており、選手に判断を委ねる場面が更に増えていくだろう。

那須ブラーゼンのチームワークはプロトン内でも群を抜いて良いと感じている。すべての戦力が噛み合って走れれば必ず勝てる。優勝まであと一歩。

このチームで、それぞれが一生持ち歩ける誇り高い成果を上げたい。
次戦までは1ヶ月の期間が空くため、更にチーム力の底上げと技術的な調整をして臨みたい。

序盤の攻防の中、自らの好調を知らせる柴田のサムズアップ

Text:若杉厚仁 Photo:樋口隆明